マイナーなピアノ音楽好き人間のブログ

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アルカン「ヴィエル風変奏曲」、あるいは技巧への拘り

 

前置き

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 さて、アルカン「ヴィエル風変奏曲」を投稿した*1


Alkan:Variations à la vielle(Sheet Music+Synthesia)

 

 IMSLPによれば、作曲は1840年、アルカンは1813年生まれだから、作曲者27歳前後の作品ということになる。

 アルカンは初期には変奏曲やロンドといった、技巧性を重視した曲を中心に作曲をした作曲家である。といっても、同世代のショパンやリストもやはり初期には技巧に重みを置いた作品を書いたのだから、別にこれはアルカンに関してのみ当てはまる事柄ではない。若者が己の技巧を披露したがるのは、音楽に限らず、いつの時代にも見られる普遍的な傾向かもしれない。

 そんなアルカンだが、「3つの華麗な練習曲」Op.12辺りからオリジナル曲に注力するようになり、作品番号付きに限るとOp.16の3つの変奏曲を最後に変奏曲の出版を止めている。恐らく作品の技巧よりも内容に作曲者の関心が移ったのだろう。その結果としてアルカンは数多くの傑作を生みだしたのだが、その一方で、これぞ超絶技巧!といった如何にもな難技巧で聴衆を感嘆さしめる野心を完全に失った訳でもなかったそうだ。この「ヴィエル風変奏曲」が、その一例である。

 

テーマ

 

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 この曲の主題はドニゼッティのオペラ「愛の妙薬」より採ったものである。私はオペラを全く聴かないためこの主題がどれほど有名なものか分からないが、少なくとも当時ではよく知られた主題だったのだろう。健康的で覚えやすい主題である。右手がずっとオクターブ上になっているのは、ハーディ・ガーディを模した結果である……多分。

 

第一変奏

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第一変奏冒頭。真ん中に書かれているのが音域が低いバージョン。

 主題が細かい音符で装飾される変奏である。まだテーマの面影を強く残している一方、その後の技巧的な展開を予見させる。楽譜には音域が低いピアノのために最高音が低いバージョンも書かれている。私の動画では、基本的に元の楽譜(最高音が高い方)を採用しつつ、繰り返しがある箇所に関しては1回目は低いバージョン、2回目は高いバーションを演奏している。

 

第二変奏

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同音連打の見られる第二変奏冒頭。



 同音連打や高速パッセージといった技巧を要求する変奏である。アルカンはあまり同音連打を多用する作曲家ではないが、ここでの使用はやはりハーディ・ガーディを意識しているのだろう。後半の六連音符が続く部分はアルカンらしさを感じさせるが、本当の恐怖は次の変奏に訪れる。

 

第3変奏

 

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 それまで右手が演奏していたメロディーが左手に移り、右手はトリルと付点音符で装飾する。どこかのどかな印象さえ感じさせる冒頭だが、中盤部からは右手は恐ろしい早さで堰を切ったように音符をまくし立てる。しかも長い。具体的なテンポの指定がないためこの演奏だと少し早すぎるのかもしれないが、32音符という事実を考えるとやはり高速な演奏が適切な気がする。

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右手の超高速パッセージ。

Lentement

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 調性が変わり、それまでとは雰囲気が大きく変わる変奏である。舟歌風の伴奏の上に、細かい音符で装飾、変奏されたテーマが美しく奏でられる。いかにもなロマン派的雰囲気のする変奏で、アルカンもこういう曲を書けたのかと驚く。カデンツァを挟んで短い間奏部を挟んだ後、フィナーレへと曲は移る。

 

フィナーレ

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 ワルツのテンポのフィナーレ。アルカンはロマン派の作曲家にも関わらずワルツをほとんど作曲しなかった作曲家であるので、ここでの指示は案外珍しい。フィナーレらしい華々しい変奏で、同音連打を含む高速パッセージが見られる。最後は四分の二拍子のギャロップ風の曲想になって、やはりハーディ・ガーディ風の長いトリルによって曲は閉められる。

*1:ヴィエルとは「ハーディ・ガーディ」のフランス語読みである。ハーディ・ガーディ……?という方は↓


Tobie Miller Hurdy Gurdy - J.S. Bach Partita E Major, Preludio